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琵琶湖発人間探訪

モーア・オースティンさん
モーア・オースティンさん
日野まちなみ保全会 事務局長
モーア・オースティンさんを訪ねて

  「まずは寛いで…。」と、抹茶と和菓子を振る舞ってくれたモーア・オースティンさん。
近江商人の発祥地のひとつ、日野町で自らも古民家に住みながら、地域の人々と伝統的な町並みを守ろうと活動されています。
ここに至る経緯と、伝えたい思いを伺いました。

日野まちなみ保全会

住所:滋賀県蒲生郡日野町大字松尾1501
e-mail:hino_machinami-1@hotmail.co.jp
近江日野商人邸宅土塀修復プロジェクト

アメリカで育ったのも、日本で憧れたのも古きよき家

 私の生家はアメリカのボストン郊外にある古い家です。 大森貝塚を発見したモース博士がかつて出入りしていたそうで、 家には日本の版画や焼物が残っていました。 幼い頃そういう環境で育ったせいもあったかもしれません。 大学在学中に日本語を勉強し、日本に短期留学することとなりました。 大学卒業後の1984年に再び日本へ。 文部省の英語指導主事助手として山口県の中学・高校で英語を教えました。 その後自治省の事業に携わるため数年間東京で過ごした後、 今度は大津に設立される「全国市町村国際文化研修所」に来ないかと誘われたのです。
 滋賀に住むのであれば「古民家に住みたい」と思いました。 アメリカの実家もそうでしたし、 山口にいたころ老舗旅館を訪れたときにも伝統的な建物に魅力を感じていました。 滋賀で最初に住んだのは北比良の平屋、その昔彦根藩・井伊家の倉庫だった建物でした。
 気に入って住んで12年、家主さんの都合で引っ越すこととなり、 現在住んでいる日野の古民家に出会うことになりました。 明治元年築の家の造り、風情ある町並み、 近江日野商人の発祥の地という歴史…… すべてに惚れこみました。

先頭に立って、日野の町並みを守る活動を拡大

 日野に住み始めて半年、町内の人に誘われ「日野の町並みと景観を考える会」に入りました。 会は役場の商工観光課内にあり、話し合いが中心でした。議論に参加するうちに、 アメリカ人の感覚なのでしょうか、もう少し目に見える活動に力を入れていく必要があると感じるようになり、 会の中でいろいろな提案をするようになりました。
 数年して会の事務局を外部に出す話が持ち上がり、 その事務局長になってほしいと頼まれました。 最初は迷いましたが、「やりたいことは何でもやっていい」と言われ、 思い切って引き受けることにしました。
 会の名前も新しく「日野まちなみ保全会」に。 まずは会の存在を知ってもらおうと旧近江日野商人宅の空き家の商家で落語寄席を開くことから始めました。 建具を全部外した大空間に座布団を敷き、そこに座って伝統芸を楽しんでもらったのです。 次は通りの家の板塀の柱や玄関周りに弁柄(べんがら)を塗り直す作業を進めました。 昔ながらの塗料である弁柄は色や光沢に独特の風合いがあり木目も美しく見えます。 5軒ほど塗ったところで話題になり、 20軒、25軒と輪が広がることになりました。 実際活動してみると、皆さん嫌がるどころか協力してくれるんですね。 会には余所からこの町を選んで越してきた会員も少なくありません。 地元の人も、ここに良いものがあるのかもと気づかれるんでしょう。

古民家の衰退に歯止めを、三方よしで次の世代へ

 私自身は十数年、常に修復しながらこの家に住んでいます。 まだまだ直したいところがいっぱいありますから完成はありません。 もちろん自分たちでできないところは、職人さんにお願いしてやってもらうこともあります。 こだわりたいのは、「見た目はできるだけ変えず、見えない部分に現代生活に必要な工夫をする」こと。 建てられた当時の美しさを次の世代に残したいから、極力もとの姿を守りながら直していっています。
 そういう小さな取組みが周りの方々にも少しは影響を与えることになったかも知れません。 私が家を買ったときには町内20軒のうち6軒が空き家で放置されていましたが、 今では手をつけていない家はない状態になりました。多くの方が「町並みを守りながら住みやすく」 と前向きになってくれています。
 会では現在3軒の空き家を管理していますが、 今年は新たな試みとしてクラウドファンディングというインターネット上の募金活動のようなしくみで土塀修復のための資金を集める活動を始めました。この土塀には、年に一度の日野祭の当日だけ開け、 塀内の庭に設けた畳敷きの台に座って祭行列を見るという、 今は日野にしか残っていない桟敷窓という窓がついています。 こういう古いものを大事に守っていきたい。だからぜひこの活動は成功させたいと思っています。
 さらに将来、この町に泊まってみたい人のために宿泊が提供できたら、 収入源にもなるし、観光客にも喜んでいただける、 そしてこの町並みを未来にもつないでいける。近江商人の心得である売り手よし、 買い手よし、世間よしの「三方よし」にも通じるのではないかと思います。


(2017年3月取材)
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