HOME >  琵琶湖発 人間探訪一覧 >  石山寺第53世座主 鷲尾 龍華さんを訪ねて

琵琶湖発 人間探訪

石山寺第53世座主 鷲尾 龍華さんを訪ねて

石山寺第53世座主 鷲尾 龍華さんを訪ねて
2021年12月、大本山 石山寺第53世座主(大寺の寺務を統括する首席の僧)に就任された鷲尾龍華さん。30代の若い女性座主ということで注目を集めていますが、ご本人はとても自然な流れで仏門に入られたというのが印象的です。そこで今回は鷲尾さんの生い立ちから現在のお役目、これからの願いについて伺ってきました。

大本山 石山寺

〒520-0861 
滋賀県大津市石山寺一丁目一番一号
TEL:077-537-0013 FAX:077-533-0133

小さい頃から芽生えていた僧侶になりたいという思い

 私は大本山 石山寺第52世座主の長女として大津市で生まれ育ちました。住まいも石山寺の敷地内にあり、持仏堂(日常的に礼拝する仏像を安置する堂)にお供えをして、手を合わせて、今日あったことを報告するという毎日でした。生活のなかに自然と宗教が根づいていたと感じますね。また祖父や父がお経を唱える姿に憧れを抱き、物心ついた頃から「自分もお坊さんになりたい」と思っていました。女性で仏門に入るというのは意外かもしれませんが、一緒に住んでいた祖母も両親も「女の子だからやめた方がよい」とは言わず、「そうしたらいいね」と応援してくれていました。それは今でも不思議なんです。

 中学生のときに得度(僧侶となるための出家の儀式)を受けてからは、父から少しずついろいろなことを教わり、修行もしていました。石山寺は真言宗ですが、真言宗の修行は基本的には瞑想です。手で印を結び、口で真言を唱え、心に仏様を思い浮かべるという3つの行が瞑想の基本で、そこからさまざまなバリエーションがあります。一般によく知られる瞑想は心のなかを無にしていくものですが、真言宗では無にしてから月輪などを思い描き、自分と世界との一体感を高めていきます。

外の世界を知ることで仏門に入る意味を改めて実感

 父からはよく「外の世界を見ること、学問をすることが大事」だと言われていました。そうした影響もあり、大学は同志社大学で西洋美術史を学びました。ここでもよく「なぜキリスト教の大学に? なぜ日本美術ではなく西洋美術?」と聞かれましたが、自由な校風に憧れていたこととシャガールなど西洋の絵画が好きだったので、素直に選んだだけなんです。私自身も家族も「お寺の子だからこうしなければ」という固定概念がなかったのかもしれませんね。

 大学卒業後も「お寺以外の社会を見たほうがいい」ということで、一般企業に入社しました。実際働いてみると大変だなと感じることが多々ありましたし、周りにも心を病む人がたくさんいました。会社が悪いのではなく、時代だったり環境だったり要因はいろいろあると思います。私はそのような心の面にアプローチしていくのがお寺であり、お坊さんなのではないかと改めて感じ、3年勤めた会社を辞めることにしました。

 実は、ちょうど退職を悩んでいたときに、東京国立博物館で開催されていた「弘法大師と東寺の秘宝展」に行きました。そこで空海さん(=弘法大師)が24歳のときに書かれたという書を見て、なんて力強く才能あふれる書なのかと衝撃を受けました。同じ年頃の空海さんと自分がリンクして、自分もこうしてはいられないと仏門に入る大きなきっかけになりました。

無理せず、頑張り過ぎない  心を平安に保つことが大事

 その後、種智院大学に編入し、学問としての仏教や歴史、声明、梵字の書き方などを2年間勉強しました。そして2018年、石山寺法輪院の住職に就任。2021年12月、がんで闘病していた父が亡くなり、引き継ぐかたちで石山寺第53世座主に就任しました。現在は法要に出るほか、さまざまな行事の取りまとめ、観光協会や博物館協議会の会長、東寺伝法学院の教師など、幅広い役目を担っています。

 そんななかで心がけているのは、自分自身がフラットであること。日々いろんな問題に向き合うためには自分の目線が公平でないといけないので、煮詰まってきたときには無理せずに休みます。また毎朝の瞑想でストレスを全部吐き出すことで、バランスが保たれていると思います。これは宗教によって癒され、救われているという実感をもてる時間ですね。ですから皆さんもどうぞ頑張り過ぎないようにしてください。煮詰まっているなと思ったら、まずは呼吸を整えることが大事です。そして自然を眺めたり、抵抗がない方はお寺に行って手を合わせたりすることで、心が癒されるのではないでしょうか。

 石山寺では今後、誰もが気軽に参拝できる環境整備に力を入れていこうと考えています。これは「観光寺としてはもちろん、心の拠り所としてもう一歩踏み込んでいただけたら」との想いからです。実は、座主に就任してすぐに本堂の仏様の並びをより文脈的にわかりやすい配置に変えました。そこがまた新しい祈りの場になり、お寺を中心にして多くの方がご縁を結ぶ場所であってほしいと願っています。
 

 
(2023年5月取材)

CSR

ページトップ